訴訟コストと訴訟対応費用削減のアプローチ
知財訴訟費用の膨大化
近年の調査によると、電子証拠開示手続き(eDiscovery)を必要とする知財訴訟案件の対応コストは、マイクロソフト社で10億円から20億円、オラクル社で16.5億円という膨大な数字となっています。この費用の内訳は、訴訟準備費用:10%、訴答手続き:10%、証拠開示:40%、審理:40%が平均と言われます。この費用のほとんどを弁護士事務所に支払うわけですが、弁護士事務所のコスト・コントロールへの取り組み次第でこの費用が大きく変化します。具体的には、弁護士費用自体の削減、弁護士との連携による訴訟の予算化およびディスカバリー業者の選定などがあります。
弁護士事務所への支払い方法
弁護士費用を削減するためには、まずその支払方法の違いを理解する必要があります。下記は、弁護士事務所への代表的な費用支払い方法です。ただし、何れが日系企業にとって有利・不利かは、原告か被告か、もしくは案件の性質によって変化します。
- 時間課金 (Hourly):米国では$300-$1,000/時間が平均で、1時間以下の場合は6分単位(1/10)で課金が発生します。
- 成功報酬型 (Contingency) :原告となる場合に、米国企業と弁護士事務所の間でよく使われます。定額成功報酬は、相手側支払い額(リカバリー額)からコストを差し引いた後の30-40%程度を弁護士への報酬とするのが一般的です。
- 定額費用(Flat Fee):この場合は、定額を訴訟期間に関係なく一度で支払うものよりも、毎月定額を弁護士事務所に支払う方法が一般的です。タスクごとで払う場合も定額費用ですが、この場合は相手方の申請(Motion)を1つ取り消すと2万ドルなど、事前に取り決めた定額を成果物に対して払います。他にも、訴訟のマイルストーンを設けて段階的に支払う定額費用法もあります。また、定額費用にカラー(Collar)をつけるとよく言いますが、このカラーとは定額費用と実際の時間費用を比較して、その差額の半分を弁護士事務所が払い戻したり、追加分を企業が支払ったりする契約のことです。
- 上限設定(Fee Capping):案件ごとに上限を設けたり、実際の詳細なタスクごとに上限を設けたりします。
- 特別価格(Preferred Provider): 多くの案件で弁護士事務所へ一定の仕事量を約束できる場合、もしくは一定の案件数への提案機会を約束する代わりに、弁護士事務所が通常料金からディスカウントします。
弁護士費用削減の考え方
まず、前述した弁護士費用の支払い契約ですが、全体コストで弁護士側にコスト削減のインセンティブが付くようにしなくてはなりません。一般的に時間課金の場合は弁護士側にとってリスクが無いため、通常は成功報酬型などを併用して契約します。原告になる場合は変動成功報酬がよく使われますが、これは相手側の支払い額(リカバリー額)によって10億円程度以下であれば30%、10~20億円までは20%、20億円以上は10%といった具合に支払うというシステムです。他にも混合型成功報酬があり、例えば成功報酬分を15%程度に低く設定し、時間料金を25%ディスカウントするといったことが可能です。
また、近年日本企業が被告となる場合に、リバースコンティンジェンシー(Reverse Contingency)と呼ばれる方法がよく使われます。このリバースコンティンジェンシーはこちらの支払予想額(ダメージ額)を事前に設定し、その額からのセービング(Saving)に対して成功報酬を支払うというものです。例えば原告への支払いを10億円と設定し、セービングの33%に対するリバースコンティンジェンシーで契約します。すると、実際の支払いが4億円であったならばセービング6億円に対する33%の2億円が弁護士に支払われます。
一般的に弁護士は訴訟が長引けば利益が多くなります。このため、和解時などの最終判断は企業側にあることを必ず事前に弁護士事務所に明確にしなくてはなりません。最後に、同じ弁護士を使うことは下記の理由などでコスト低減のプラスとなります。
- 弁護士が案件を熟知している
- 弁護士が企業の体制やビジネスを十分に理解している
- 企業側が弁護士の専門性を理解することにより使い分けができる
- 多くの案件を頼むので、時間割引をしてくれる
弁護士事務所との連携による訴訟の予算化
訴訟が事故や災害として捉えられていた過去には、訴訟の予算化は不可能に近いと考えられていたようですが、近年では企業における訴訟の予算化が一般的になっています。
訴訟の予算化では、訴訟進行の各ステップにおいて具体的な仮定を作成します。例えば、「申し立て(Motion)」の数や「宣誓証言の人数や時間」、「証拠開示データの範囲」などの前提条件を作り、予算を算定します。
このような作業に欠かせない弁護士事務所も現在では予算化に積極的です。予算化により、弁護士の経験や戦略も分かるだけでなく、証拠開示データやカストディアンの範囲なども事前に把握できるため、企業のコスト管理および訴訟準備としては非常に有効です。
弁護士費用の一部となるディスカバリー費用の削減
近年は、証拠開示(ディスカバリー)作業が訴訟費用の40%以上を占める場合も多々あるため、ディスカバリー費用を削減することは、弁護士費用の削減に大きく繋がります。ディスカバリー業者の選定に関しては、弁護士任せではなく、企業側が積極的に弁護士事務所にコスト・コントロールを働きかけ、弁護士が選定した複数の業者から自分で選ぶことが大切です。その際の選択基準は下記の通りです。
- 日本語も含めた多言語処理の経験が豊富であり、ディスカバリーのほとんどのプロセスをカバーできること
- 価格が分かりやすくリーズナブルであること
- 現地スタッフによる作業が可能であること
- レビューソフトの知識があり、使用トレーニングやサポートも可能であること
- 将来的な社内インフラ整備に対しても知識が豊富であること
また、弁護士費用と同様に、同じディスカバリー業者を使うことにより、企業体制の理解を高め、ディスカバリーコストを下げることができます。さらに、自社で処理できる部分はなるべく社内インフラを整備し、社内業務の一部として取り込む方が訴訟件数の多い企業にはメリットがあります。
このように、訴訟費用の削減には、弁護士事務所との連携によるコスト・コントロールが欠かせません。また、弁護士費用の削減を議論するには、まず有能な弁護士と契約し、訴訟を有利に運ぶことが大切です。有能な弁護士の見極めは、他者からの紹介や評判などもありますが、近年ではウェブサイトなどでも弁護士や弁護士事務所が評価されていますので、それらのサイトを参考にすることもできます。まず有能な弁護士を見極め、そこから上記のようなコスト・コントロールを始めてみてください。
